人間工学と聞くと、少し難しいイメージを持つかもしれません。しかし、私たちが日々快適に過ごしている自分の部屋やオフィスには、人間工学の知見がふんだんに活かされています。人間工学の考え方の基本はシンプルで、いかに人間が快適に過ごせたり安全に作業をしたりできるかということです。インテリアに興味がある方ならきっと興味深く感じるでしょう。
本記事では人間工学の概要と、人間工学の理論がどのようにインテリアに活かされているか、また、人間工学に基づく家具分類を紹介します。
目次
人間工学(エルゴノミクス)とは
人間工学(エルゴノミクス)とは、人間の特性を踏まえた環境や物の設計を研究する学問です。人の自然な動きを可能にすることで、快適性や安全性、仕事の効率性などを高めることを目的とします。
現在、人間工学はさまざまな道具や機械、日用品、スマートフォンなどのIT機器のデザインにまで生かされています。もちろん、インテリアデザインやソファ、チェア、テーブルなどの設計にもその知見は不可欠です。近年は「エルゴノミクスチェア」などのように、人間工学に基づいたデザインであることを強くアピールする商品も増えています。
人間工学(エルゴノミクス)の歴史
人間工学は、1850年代に欧州において労働と健康の影響について研究する学問として生まれ発展してきました。
1910年代には、米国でも同じように労務の領域で人間工学の研究が進みます。さらに米国では第二次大戦後、戦時中の空軍機の事故の原因解明をきっかけに、ヒューマンエラー防止や安全性向上を目的とした機械設計やシステム設計領域での人間工学も進んでいきます。
日本でも1920年代には心理学を切り口とした人間工学が研究されており、現在の人間工学は、このような各国の知見が融合した学問として成立しています。
人間工学とインテリア
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人間工学とインテリアは密接な関わりがあります。まず、快適なインテリアのレイアウトは、人間のサイズや可動域(動的な寸法)を踏まえて設計する必要があるため、人間工学の知識が必須です。
椅子やベッド、デスク・テーブル、収納棚などさまざまな家具設計でも人間工学の知見は重要です。在宅ワークを経験してオフィスのチェアのよさに気づいた方も多いのではないでしょうか。家具の使用目的によって適切な設計がされているのも、人間工学の知見が生かされているからです。
人間工学のインテリアへの実用例
人間工学へのインテリアへの応用は、インテリア空間のデザインから家具のパーツにいたるまでさまざまです。ここでは「ポピュレーションステレオタイプ」「安全設計」という2つの視点から解説します。
ポピュレーションステレオタイプ
ポピュレーションステレオタイプとは、その集団の多くの人に共通する行動パターンのことで家具のサイズ、ドアやスイッチなどの回転の方向、場所(左右、上下)、適切なカラーを選択する際は、ポピュレーションステレオタイプに配慮して設計することが大切です。
例えば、世界では右利きの人が多いので、ドアや戸口は右腕が使われることを想定して設計されます。ただ、人体の大きさやパーソナルスペースなどは性別や民族によっても異なるので配慮も必要です。
安全設計
人間工学的な工具や設備を導入すると身体的負担を軽減できます。その結果、安全性も向上します。以下、2通りのアプローチがあります。
● フールプルーフ:誤操作が生じないような安全な設計をする
● フェールセーフ:ミスが発生しても最小限に損害を抑える設計をする
例えば、高齢者が転倒しないようにバリアフリーなインテリアを設計するのがフェールプルーフで、万が一転倒してもケガをしないような床材を選択するのがフェールセーフです。
人間工学における家具の分類
人間工学の視点で家具を分類すると、人体を支える「人体系家具」、物を支える「準人体系家具」、収納や間仕切りをする「収納系家具」に分けられます。それぞれ使用用途が異なるため設計の方法も異なります。
人体系家具
人体系家具とは、直接人間の体を受けるチェアやソファ、ベッドなどの家具を指します。長時間にわたり人間の体重を支える家具なので安全性や堅牢さが重要となり、身体が疲れない設計にする必要があります。チェアが代表的なため「脚もの」とも呼ばれます。チェアは、仕事用やダイニング用などの用途に応じた機能性を持たせる必要があります。
準人体系家具
準人体系家具とは物を支える家具ですが、同時に人体とも接する家具です。テーブルや机、オフィスカウンターなどが代表的です。準人体家具は、まず置くものの重さに耐えうる安全性が求められます。また、ダイニングテーブルか作業用デスクかなど家具の用途によって、適切なサイズや形状、高さがそれぞれ異なります。
収納系家具
収納系家具とは、タンスやキャビネット、収納棚など物を収納する家具や、衝立、間仕切りなど空間の仕切りをする家具が該当します。タンスや戸棚などは、人が物を収納するときに負荷がかからないように、無理なく手が届き必要以上にかがまない高さが求められます。また、棚の目的に応じた人の動作空間を確保することも大切です。
人間工学に基づいた家具・インテリア設計
JIS規格で定められた椅子やデスク、収納については人間工学に基づき強度、耐久性などが定められています。また、人間工学の研究によって快適で安全な家具のサイズや造形などが明らかになっています。
人間工学に基づいたチェア
人間工学にもとづいたチェアは、坐骨結節点(座面に接し体重を支える部分)を中心に圧力が分散されるような角度で設計されています。座面の床からの高さも重要となります。適切な高さは身長の1/4で求めることができ、両足の踵全体が床につく高さが目安です。
背もたれはS字曲線にフィットし腰を支える構造である必要があります。短時間の使用なら背もたれの低いローバック、ミドルバック、長時間の使用なら背もたれの高いラウンドバックが適しています。
人間工学に基づいた机・作業台
デスクや作業台は、床から62〜70cmの高さが目安です。椅子の座位基準点から肘までの高さに設定すると長時間座って作業しても疲れないので作業の効率がアップします。また、手を自然に机に置くことができます。椅子との差尺(椅子の座面からテーブルまでの長さ)は25〜30cmが適切です。
一方、キッチンのように立って作業する台の場合、身長÷2+5cmが適切な高さです。この高さだと、手元に力が入りやすいので効率よく作業ができます。
人間工学に基づいた収納
収納家具の高さは、使う人の足の踵の位置から決定します。使う人が無理なく手を伸ばせる高さが理想であり「身長の1.2倍程度」が望ましいとされています。それより高いと使いにくくデッドスペースができたり、収納したものを取り出せなかったりという問題が発生します。
特にキッチン収納などにおいては、必要以上に腰をかがめるような姿勢をとらなくてもよい棚が望ましいでしょう。チェアや机に比べると種類は現在少ないものの、人間工学に基づく収納家具の研究も進んでいます。
人間工学に基づいたレイアウト
人は空間内で移動します。机に座っていても作業中は手を動かします。空間のレイアウトを考える際は、家具の寸法に加え人の動作寸法も含めた「動作空間」を確保することがポイントです。
例えば、収納棚から物を出し入れする場合も扉を開いたりしゃがんだりするので、90cmのスペースを確保する必要があります。テーブルで食事をする場合も椅子を出し入れするので、後ろにある壁や家具との間は最低でも60cm以上、椅子の後ろを人が通るなら100cmは必要です。
まとめ
人間工学は、社会のいろいろな領域に役立っている研究ですが、インテリア業界にとっては特に重要だといえるでしょう。空間のデザイン、ソファや家具の配置、素材の選択、色彩の選択にいたるまで役立つ知見が豊富に蓄積されています。センスや個性を追求するだけでなく、ぜひこのような先人たちの研究結果も役立ててみましょう。
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